5月5日 安定化も改善もしていない 小出裕章 (MBS)

2011年5月5日(木)、MBS(毎日放送)ラジオの番組「たね蒔きジャーナル」に小出裕章氏(京大原子炉実験所助教)が出演されました。

番組案内

2011年5月 5日【木】
関西で暮らす被災者の思い
今夜の特集は、震災と原発事故のため、福島県浪江町から神戸市の公営住宅に家族5人で避難してきた44歳男性に電話をつなぎます。遠く離れた地での生活の現状や、故郷への思いなどをうかがいます。
また、きょうも京大原子炉実験所助教の小出裕章さんに、原発事故の問題について解説してもらいます。


録音

【福島原発】5/5/木★何をするにしても、とてつもなく大変な作業

要約

・(3号機の核暴走の可能性について、リスナーからの質問。水素爆発を起こした1号機と核暴走が起きたかもしれない3号機の使用済燃料プールは健在なのか?)見ることができず正確な状況は分からない。3号機で本当に核暴走が起きたなら、使用済燃料プールのラックに整然と並んでいた燃料が一箇所にぐしゃっと集まって起こったはず。その周辺は激しく壊れているはずで、水が入れられるような状態ではないだろう。使用済燃料プールはコンクリの構造物にステンレスが内張りしてあるもの。そのどこかが破れているなら、水が漏れるために冷却が困難な状態のはず。

・(核燃料もどこかに集まっている状況?)水素爆発が起きてプールの中の燃料が一箇所に集まってしまい核暴走が起きたのでは。その場合かなり破損している可能性が高い。

・(冷却が一層困難になる?)ずっと長い間水をかけ続けるしかない。

・(東電が仮設の空冷装置と熱交換器を用いた循環型冷却システムを設置する工事を週末から始めると報じられているが、効果は?)熱を除去するためには水でも空気でもいい。外でもいい。ただし汚染地帯に配管をとりつける工事は一番大変だろう。生身の人間がすることであり、とてつもなく大変。まずは作業現場の空気をきれいにする作業が始まっているが、うまくいってほしい。

・(作業員が入った建屋内は毎時10ミリシーベルトで、被曝を防ぐために空気ボンベを背負って入ったそうだが?)空気がすごく汚れている。マスクでは限界があり、全面マスクと酸素ボンベで仕事をせざるを得ないほど汚れている。外部からくるガンマ線は避けられない。

・(劇的な効果はない?)内部被曝を避けるためのもの。外部被曝については鉛のスーツを着ればいくらかは防げるが、それでは作業できないため、外部被曝は我慢して内部被曝は防ぐということだろう。

・(原発事故が起きたときに原子炉内の状況を外に伝えて今後の予測に活かすERSS(緊急時対策支援システム)が電源喪失により機能せず、それに基づき動かすSPEEDIも動作せず、共倒れしていたそうだが?)彼らの言う「想定外」が起きたということだろうが、そもそもこれらのシステムはその想定外の事態に備えたもの。でも彼らはまた「想定外」という言い訳をするだろう。それでは困る。

・(米国の原子力規制委員会の委員長が、福島原発での作業は難航していて事態は改善していないと発言したそうだが?)改善していないと思う。二ヶ月近く悪化を食い止めている仕事が続いている。そのために大量の被曝をしながら作業員の方々が食い止めてくださっている。ありがたく思うしかない。

・(委員長発言はその通り?)日本では収束に向かっていると言われたり、菅さんが安定化に向かっていると言ったりしているが、そういう状況ではない。

・(事態は改善していない?)外から水を入れて冷やすということしかできていない。そのために汚染水は7万トン出ていてその始末すらできていない。悪化しているとも言えないかもしれないが、改善はしていない。

・(本格的な冷却システムをつくる前段階として行っている水棺について、格納容器が重量に耐えられないのでは等の懸念が出ていることに対し、東電はシミュレーションをした結果、安全性に問題ないと判断したと言うが?)私は構造設計専門家ではないので正確ではないかもしれないが、彼らは耐震設計は万全で地震が来ても大丈夫と言ってきた。実際は今回も壊れたし、2007年の中越沖地震のときも柏崎刈羽原発でも多数の機器が壊れた。単なる計算で安全だという結果が出たとしてもダメ。

・(いま起きていることの検証をしっかりする必要がある。今月はフランスでG8があり、6月にはIAEAの閣僚会議がある。そのときに説明の必要も生じる。どういう形での事故調査委員会であるべきか?)難しい。原子力村という産官学の共同体が推進を続けて原子力はここまで来た。事故があるとデータを隠すということを繰り返し、海外から怒られてきた。従い、原子力村での調査では今回は乗りきれないだろう。

・(99年のJCOのときは原子力安全委員会の中に事故調査委員会をおいた。今回は原子力安全委員会も当事者。保安院も原子力安全委員会も東電も入れない第三者機関を作る必要があると思うがどうか?)過去、原発の事故が起きるたびに、飛行機の航空機事故調査委員会のようなものを作るべきという意見はあった。今回は行政、安全委員会、電力会社から独立した委員会をつくらないといけない。


全体書き起こし(転載)

5月5日MBSラジオ小出裕章氏「3号機使用済み燃料プール、空冷装置取り付け、SPEEDI等について」

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メインキャスター(以下「MC」):千葉猛
コメンテーター:池田昭 毎日新聞論説委員

※完全な文字起こしではありません。
 また、誤字脱字等、ご了承下さい。
 ( )は補足。

MC:小出さん、どうぞよろしくお願い申し上げます。

小出氏:はい、こちらこそよろしくお願いします。

MC:今日は毎日新聞論説委員の池田さんと一緒に
  お伺いして参ります。

池田氏:よろしくお願いします。

小出氏:よろしくお願いします。

MC:まず、小出先生にリスナーの方から質問のメールが来ておりまして、
  昨日3号機の使用済み燃料プールでの核暴走の可能性について、
  小出先生にお伺いしましたけれども、
  そのお話を受けてのラジオネーム(省略)さんという方からの質問です。
  「水素爆発を起こした1号機と核暴走が起きたかもしれない
  3号機の使用済み核燃料プールは健在なのでしょうか。
  既に爆発して形が無くなっているように思うのですが、
  燃料プールは一体どんな状態なのでしょうか」という質問なのですが。

小出氏:私自身ももちろん見る事が出来ない状態な訳で、
  正確にどうなっているかとう事は解りません。
  ただ、もし3号機の方で核暴走が起きたという事が本当だとすると、
  使用済み燃料プールの中に使用済みの燃料が
  整然とラックというものに入れて並べられていたはずなのですが、
  それがどこか1カ所にぐちゃっと集まったという、
  そういう状態で所謂臨界という状態になったと思うのです。
  そうするとその周辺はかなり激しく壊れていると思いますので、
  簡単に水が入れられるような形で残っているとは、
  私には思えないのです。

MC:所々崩れ落ちているという感じで・・・

小出氏:使用済み燃料プールというのは、コンクリートの構造物の中に
  ステンレスが内張りしてあるという、そういう構造なのですけれども、
  例えば、ステンレスにヒビが入っているとか、
  どこかが破れてしまっているとか、そういう事になってしまいますと
  今ある使用済み燃料の冷却という事に困難が生じているはずだと思います。

MC:水を入れても入れても、やはり・・・

小出氏:漏れてしまうのですね。
  ですから次から次へと水を入れ続けるしかないという事になると思います。

MC:核燃料も溶けた形でどこかにグシャっと集まっている
  という状況なのですか。

小出氏:どうしてそんなふうに集まったかと言うと、
  一番初めのものは、私は、水素爆発だと思うのですが、
  水素爆発が起きて、使用済み燃料プールの中の使用済み燃料が
  どこか一カ所に集められてしまって、
  そこで核暴走が起きたという事になりますと、
  また膨大なエネルギーが出て来たはずですので、
  かなり破損している可能性が高いと、私は思います。

MC:となると、先ほどおっしゃっていたように、
  また冷却する作業というのが、一層困難を増して行くという事になるのですね。

小出氏:そうですね、ずっと長い間水を掛け続けるしかないと思います。

MC:解りました。
  そんな状況の中で、今日新聞各紙が報道をしているのですけれども、
  東京電力は、仮設の空冷装置、空気で冷やす装置と
  熱交換器を使った循環型冷却システムの設置に向けた工事を
  今週末にも始めると伝えれています。
  建屋外付けの空冷装置で、冷却水を冷やすという事なのですけれども、
  これは大きな効果は見込めるのでしょうか。

小出氏:熱を除去するために、水で冷やすか、空気で冷やすかという事で、
  どちらでも良いと思います。
  そして、冷やす装置は、所謂原子炉建屋ではなくても良い、
  外でも良い訳ですから、比較的まだそれは問題は無いと思います。
  ただこそまで配管を作って、原子炉の中の、
  既に膨大に汚染している訳ですけれども、
  その水を循環出来るようにしなければいけません。
  ですから、新しく配管を膨大に汚れた場所に行って取りつけるという工事を
  どうしてもやらなければいけない訳で、
  それが一番大変だと思います。

池田氏:それを作業員の方がやるという事になる訳ですね。

小出氏:そうです。
  生身の人間がやる以外にありません。

MC:とても簡単に出来るような事ではない訳ですよね。

小出氏:私は、とてつもなく大変だと思います。

MC:それに向けてまた東京電力はやり始めると公表したという事な訳ですね。

小出氏:そうですね。
  まずは作業現場の空気を綺麗にしなければいけませんので、
  空気中に漂っている放射性物質を吸い出して、フィルターに付けて、
  空気を元に戻すという作業を、今日から始めた訳です。
  何とか上手く行って欲しいと思います。

MC:そのニュースの中で、作業員の方が入られた原子炉建屋内というは、
  平均で毎時10mSvという高い線量の場所での作業で、
  空気ボンベを背負って入った、という事が伝えられているのですが、
  ボンベを背負ったら被曝は大分防げるのですか。

小出氏:空気がまず物凄く汚れているのですね、
  その空気を、例えば、マスクのようなものをして、汚染を取ろうと思っても、
  取りきれる量は知れている訳ですから、
  全面マスクにして、全く建屋内の空気は吸わない、
  要するに酸素ボンベからの酸素を吸って、
  とりあえず仕事をせざるを得ないという程汚れていた訳です。
  ですから、その空気を吸い込むという事だけは、
  酸素ボンベを背負って全面マスクをするという事で防げる訳ですけれども、
  ただもう、物凄い汚れた環境な訳ですから、
  外部から飛んで来るガンマー線というものは避ける事はできません。
  ですから、そこの作業現場が1時間当たり10mSvであったというなら、
  それはもう、何をやっても避けられません。

MC:劇的な効果を表すものという訳ではないのですね。

小出氏:要するに、内部被曝を避けるというものです。

MC:体の中に放射性物質が入るを避けると。

小出氏:はい。
  外部被曝に関しては、鉛のスーツを着るというような事をすれば、
  いくらかは防げますけれども、
  重たい鉛のスーツなんか着てしまったら、作業が出来ませんので、
  もう外部被曝は我慢する、内部被曝に関しては極力避けるようにする
  という事だと思います。

MC:外側からの被曝については防げないという事ですね。

小出氏:防げません。

MC:解りました。
  それからもうひとつ、今日伝えられたニュースの中で気になるものとしまして、
  原発事故が起きた時に、原子炉内の状況を外に伝えて今後の進み具合を予測する、
  これ、最重要な情報だと思うのですが、
  ERSS、緊急時対策支援システム(Emergency Response Support System)
  という仕組みが、津波で電源が流されて機能していなかった、
  そして、この番組でも何度も出てきましたSPEEDI、
  緊急時迅速放射能(影響)予測(ネットワーク)システムは、
  このERSSに基づいて動かす事になっていたので、
  事故に備えた両方のシステムが共倒れしていたという事が
  伝えられているのですが、
  それをお聞きになりまして、小出さん、どう思われますか。

小出氏:要するに、彼から言わせると、
  想定外の事が起きたという事になってしまう訳です。
  でもERSSにしてもSPEEDIにしても、
  想定外の事が起きた時に動かなければいけないというものだった訳で、
  また彼らに言わせれば、「想定外だったのです」という言い訳が
  返って来るのでしょうけれども、
  やはりそれでは困るのだと思います。

MC:想定外の時にこそ、動かなければいけないものが、
  その時に壊れてしまっていて、
  それも想定外だった、という話な訳ですよね。

小出氏:はい、(苦笑)、そうですね。

MC:(唸りつつ)何とという感じですけれども、
  あと、これは外国から伝わって来たのですけれども、
  アメリカの原子力規制委員会の委員長が、アメリカの下院で、
  福島の事故については、日本当局による事故収束に向けた作業が
  難航していて、事態は殆ど改善していない、
  というふうに発言したと伝えられています。
  この事について、小出さんはどう考えられますか。

小出氏:そうですね、改善はしていないと思います。
  要するに、悪化を食い止めているという仕事は
  もうかれこれ2カ月近く続いているのですね。
  でも、悪化を食い止めるという事は何としてもやなければいけないし、
  そのために大量の被曝をしながら作業員の方々が
  何とか踏み留めて下さっている訳ですから、
  私は有難く思うしかないと思います。

MC:では、アメリカで伝えられている、この委員長発言というのは、
  もうその通りだという事なのでしょうか。

小出氏:日本では、例えば、
  収束に向かっているとか、安定化に向かっているとか、
  前は菅さんが言ったとか言わないとかという話がありましたけれども、
  そういうような状況ではありません。

MC:自体は殆ど改善していない、と。

小出氏:そうです。
  結局外から水を入れて冷やすという事しか出来ないまま、
  ずっと今日まで来ている訳で、
  そのために、外から入れた分だけの水が、
  汚染水としてまた外に流れて行ってしまう、と。
  既にもう7万トンもの汚染水がありながら、その始末すら出来ないで、
  困り果てている、というそういう状況ですので、
  全く事態は、悪化しているとも言えないと思いますけれども、
  少なくとも改善はされていないと思います。

MC:それは、改善出来るというふうな方向として、
  東京電力が今やろうとしている、
  本格的な冷却システムを動かす前に行われる予定の
  この格納容器を水で満たす水棺という作業ですけれども、
  格納容器の重量が増して余震に耐えられるかというのが
  凄く懸念されていたのですが、
  東電は様々なシミュレーションの結果、
  安全性に問題がない、というふうに今日判断したという事なのですが、
  小出先生は、どうご覧になりますか。

小出氏:私は構造設計の専門家ではありませんので、
  あまり正確なお答えにならないかもしれませんが、
  でも彼ら、はいつもそう言って来たのです。
  ちゃんと耐震設計もした、どんな地震が来ても大丈夫だ、
  というふうな事をずっと言って来た訳ですけれども、
  今回の地震でもあちこち壊れましたし、
  3、4年前になりますかね、2007年の7月に中越沖地震に襲われた
  柏崎刈羽原子力発電所でも多数の機器が壊れた、
  という事がありますので、単に計算機を動かして安全だという結果が出たとしても、
    あまりそれを信用すべきではないと思います。

池田氏:あの、小出さん、事態の収拾というのは急がねばならないのでしょうか。

小出氏:はい。

池田氏:一方で今起きている事の検証をしっかりやらないと、
  どうも先ほどの海外の厳しい目にも答えられないし、
  後は事故調査委員会というのを今月中旬に立ちあげるんだ、
  とか何とか言っていますけれども、
  今月の下旬には、フランスでG8の首脳会議がありますし、
  6月に入ると、IAEA、国際原子力機関の閣僚会議があって、
  当然どういう事になっているのだ、事態はどうなんだ、
  検証作業はどうなっているのだ、という事は訊かれますよね。
  そういう時に、どういう形での事故調査委員会であらねばならない、
  とお考えですか。

小出氏:難しいですね。
  これまで原子力を進めて来たのは原子力村と呼ばれる
  産官学の共同体でやって来た訳で、
  楽観の上に楽観を積み重ねてここまで来てしまったのです。
  それで、事故が起きてしまった後も、データを公開するとパニックが起きる
  という事で、むしろデータを隠すという事をやって、
  海外から見放される、というか、日本の政府はなっていない、
  と怒られた訳ですね。
  ですから、そういう今までの原子力村という所で調査を続けるという事では、
  今度は乗り切れないと思います。

池田氏:そうですね。
  1999年のJCOの時は、原子力安全委員会の中に事故調査委員会を
  置きましたけれども、
  今回は、その原子力安全委員会も当事者のひとりですから、
  だから、別の、保安院でもない、原子力安全委員会でもない、
  ましてや、電力会社が関わらない、第三者機関というのを作らないと、
  一切この不信感はぬぐえないと思うのですが、
  どうなのでしょう。

小出氏:もともと原発の事故が起きるたびに、
  飛行機の航空機事故調査委員会のようなものを、
  原発に関しても出来なければいけないという意見はあったのです。
  ですから、今回はやはり行政あるいは安全委員会、電力会社という所から
  独立して物が言える人を集めて、委員会を作らなければいけない、
  と思います。

MC:はい、解りました。
  小出さん、どうもありがとうございました。

池田氏:ありがとうございました。
ーーーーー

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