2011年5月19日(木)、MBSラジオの番組「たね蒔きジャーナル」に、小出裕章氏(京大原子炉実験所助教)が出演されました。
番組案内
2011年5月19日【木】
東電支援策は誰のためのものなのか?
原発事故を起こした東京電力が損害賠償を支払うため、公的資金が投入され、関西でも電気料金が上がる可能性を含んだ支援策を政府は決めました。原発事故で国民負担を決めたこの政府の案は妥当なものなのか?この支援策で、原発被災者全員にしっかり補償をし、電力会社が安全に電力を供給し続けることができるのか?取材を続けている経済ジャーナリストの町田徹さんにスタジオに来てもらいます。
きょうの福島第一原発事故については京都大学の小出先生にお話しを伺います。
録音
【福島原発】5/19/木★1.冠水-やる価値も無い作業 2.冷温停止の概念
要約
・(3号機の原子炉建屋に人が入った。入った時間は10分。放射線量は毎時160〜170ミリシーベルト。この値は高いか?)高い。日頃放射線業務に従事している私でも踏み込むのを躊躇するような被曝環境。
・(今後この作業員の方たちは建屋のなかでどんな作業をどのくらいするのか?)私は普通の人の20倍の被曝を我慢することになっている。その私でも、もしそのような放射線量であれば7〜8分しか現場にいられないということ。作業場がもし裏にあるとすると、現場に到着した途端に戻るようなことになる。それでは仕事ができないため、作業員の方の被曝限度が250ミリに引き上げられている。それでも1時間程度で逃げてこないといけない。何が出来るのかと思ってしまう。
・(線量を下げる方法は?)いくつかある。空気中の放射性物質については排風機を使って取り除ける。内部被曝についてはそれでかなりよくなる。それでも格納容器を突き抜けてくるもの、又は水たまりや汚染された壁からの外部被曝は防げない。1号機ではタングステンのスーツを着たそうだが、そのような重い物質をまとってガンマ線を遮ることになる。そのことによって作業は困難になってしまう。どっちにしても大変。
・(冠水が難しくなったため、循環注水冷却を東電がすると言っているが?)それは私がはじめから言ってきた方法。それをするためには今設置してある配管やポンプだけではできず、新たな設備を作らないといけない。熱交換器や浄化系を外につけるとしても、そこまで水をひっぱる配管のために大変な被曝を伴う工事が発生する。
・(冠水もあきらめないと東電は言っているが、可能性はあるか?)ない。格納容器に損傷があるのは確実。そんなことにこだわっていたら作業が延びる。冠水はやる価値もない。本来すべきことに集中すべきだ。
・(リスナーからの質問。冷温停止に持っていけないように思うが、チェルノブイリのように石棺化するというのはどうか?)冷温停止というのは、圧力容器が健全で炉心がそこに収まっており、冷却回路があって循環ができるという状態で炉心を冷やして100度以下にするということ。だが今回は炉心が溶けて落ち、圧力容器の底に穴が空いている。おそらく一部の核燃料は格納容器の底まで落ちている。そういう状況では冷温停止という概念は既に使えない。人間が原子炉を使い始めて60年以上の歴史の中でこんな経験はなく、未知の状態に陥っている。仮に原子炉に鉛や液体金属を入れたとしても、燃料は底に落ちており、それ自体はあまり効果はないだろう。ただ、冷温停止もできず、燃料が落ちているということを考えると、全体を石棺のようなもので覆うしかないというように私は思うようになった。
・事態はだいぶ手を付けにくい形になっており、従来の考え方をリセットして何ができるかを考え直さないといけないだろう。
・(循環注水冷却が実現できずに事態が悪化した場合は、何が想定されるか?)格納容器は損傷していると思う。それは原子炉建屋の地下に4000トンの水がたまっていることから分かる。原子炉に注入した水が流れ落ちてたまったもの。その損傷が今後進んでいって、溶けた炉心が地下に向かって落ちていく。それをどこで食い止めるかという話。少しでも汚染を少なくするために、水を入れ続けて原子炉を冷やすことが必要。ただそれをすると汚染水の更なる増加が避けられない。海にも流れている。それを避けるためにも汚染水の処理を一刻も早くしなければいけない。
・(作業員の年間250ミリシーベルトという許容量がある以上、何人作業員がいても足りなくなる?)現場では特殊な知識がないと役立たないが、そういう人を年単位できちんと揃えられるか考えると、不安を感じる。
・(放射性物質がついた瓦礫について、環境省は瓦礫を集めることで放射線量が高くなった場所はないと言っているが、本当か?)原則としては集めればそれだけ放射線量は高くなる。どういう測定をしたのか分からないが、集めれば高くなるだろう。
・(環境省が、一定以上の放射線量の瓦礫は専用施設で焼いて処理すると言っているが、煙に放射性物質が入る可能性は?)もちろんある。焼却施設の廃棄、排煙設備は高性能なものである必要がある。だが、そんな施設を作るには時間がかかる。それより集中すべきは炉心のこれ以上の破壊を防ぐことと汚染水漏洩を止めることだ。
・(それを優先しないと問題の元が解決しないということ?)何でもかんでもはできない。どうしてもというところに力を集中して乗り越えるしかない。
全体文字おこし(転載)
5月19日MBSラジオ小出裕章氏「作業被爆の防御、メルトスルー等について」
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メインキャスター(以下「MC」):千葉猛氏
コメンテーター:藤田悟 毎日新聞論説委員
※完全な文字起こしではありません。
また、誤字脱字等、ご了承下さい。
( )は補足。
MC:では、小出さん、どうぞよろしくお願い申し上げます。
小出氏:はい、こちらこそ、よろしくお願いします。
MC:今日は毎日新聞論説委員の藤田悟さんと一緒に
お伺いしてまいります。
まず、昨日3号機の原子炉建屋に人が入ったというニュースが
伝わって来ました。
作業時間は10分で、放射線量は160mSvから170mSvという事なのですが、
改めてお伺いしますが、この放射線量の値はとても高い値なのですよね。
小出氏:凄いですね。
私は日頃から放射線が存在している場所で仕事をする人間ですけれども、
その私にしても、踏み込むのを躊躇するような被曝環境です。
MC:その環境の中で作業時間10分という事だったのですけれども、
今後この作業員の人達は、対策を進めて行くとしたら、
どんな作業をどれ位して行かなければならないのでしょうか。
小出氏:例えば、私は普通の皆さんに比べれば20倍の被曝を我慢しろ、
と言われている人間です。
通常の状態で1年間に20mSvというのですが、
もし現場の被曝線量が1時間当たり160mSvだとすれば、
8分の1ですね、精々7~8分しか現場にいられないという位の
酷い環境である訳です。
そして、原子炉建屋の中に入る時には、入口がある訳ですけれども、
その入口から入って例えば裏側に行こうと思うと、随分時間がかかるはずです。
ですから、もし仮に作業場が裏であるとすると、
漸く走って行って作業場についたら、もう戻って来なければ行けないという、
その位の現場な訳です。
MC:えー!(と大きな声を出す)
小出氏:それでは全然今回の事故では、仕事が出来ないという事で、
作業員の被曝の限度というものが、一気に250mSvまで
既に引き上げられているのですね。
それでも精々1時間も仕事をしたら逃げなければいけませんので、
大変な現場に辿り着いて、仕事の道具を広げて仕事をして、
というような事を考えると、まずは何が出来るのかな、とそれを思ってしまいます。
MC:この線量を下げる方法は、あるのですか。
小出氏:はい、いくつかあります。
線量のもとになっているのは、空気中に漂っている放射性物質もあると思いますし、
たぶん水も溜まっているはずで、水からのものもあると思いますし、
原子炉の格納容器の中に充満している放射性物質が
コンクリートを突き抜けて出て来るというものもある、と思います。
それで、そのうち空気中に漂っている放射性物質については、
1号機でやったように、排風機というものを使って吸い出して、
空気中に漂っている放射性物質を取り除くという事は出来る事は出来るのです。
それをやると、特に内部被曝という事に関して随分良くなるだろう、
と私は思います。
MC:体の中に放射性物質が入って行くという事を防ぐという事については。
小出氏:そうです。
もちろん、現場に入る時には放射能防護服を着て、
そして全面マスクという、とてつもないマスクをして入らざるを得ないのですけれども、
それでも空気が汚れていて、マスクがちょっとズレていたら、
内部被曝をしてしまう訳ですから、
空気をまず綺麗にするという事は絶対に必要だと思います。
それでも格納容器を突き抜けて来るもの、あるいは水溜まり、
あるいは既に壁に付着してしまっている汚れというようなものからの
被曝は避けられませんので、所謂外部被曝と私達が読んでいるものですね、
それについては、1号機の場合はタングステンのスーツというのを
着て入ったそうですが(タングステンベストと言っていた)、
タングステンでも良いし、鉛でも良いけれども、
物凄い重たい物質を体に纏って、外から飛び込んで来るガンマー線を
少しでも減らしながら作業をするという事になるだろうと思います。
ただし、物凄い重たいスーツを着ますので、
その事によって今度は作業自体が、物凄くやり難くなるでしょうし・・・
MC:そうですね、動き難いですものね。
小出氏:そうすると、今度は作業時間を長くせざるを得なくなって、
今度それで被曝をしてしまうという事になりますので、
どっちにしても大変だろうと思います。
MC:そんな状況の中、事故収束への対策として、
圧力容器を水で満たす冠水が難しくなったので、
汚染水を綺麗にして冷却水に利用するという、循環注水冷却という方式を
東京電力は出して来たのですけれども、
これは、先生、出来る可能性は高いのでしょうか。
小出氏:それは、もとから私がそれをやらなければいけない、
と言って来たものなのですが、それをやるためには、今福島の原子力発電所に
設置してある配管やポンプだけでは出来ません。
ですから、新たに配管を取り付けたり、ポンプを取り付けたり、
あるいは熱交換器、浄化系というようなものを新たに作らなければいけません。
それで、熱交換器や浄化系というのは、外部に作る事も可能ですけれども、
そもそこまで水を引っ張って来ようと思うと、どうしても原子炉に近い所、
今現在汚染水が流れている所から引っ張って来たり戻したりしなければ
いけませんので、大変な被曝を覚悟で工事をしなければいけないと思います。
MC:なかなかやはり難しい中進めて行かなければいけない
という事なのでしょうけれども、
冠水も諦めないというふうに東京電力が言っているのですけれども、
こちらの方はまだ可能性はあるのでしょうか。
小出氏:ありません。
MC:もう全く無いですか。
小出氏:ありません。
もう格納容器に損傷がある事は確実ですし、
そんな事に拘っていたら作業がズルズルと延びるだけですので、
大体やる価値もない作業ですので、そんな事はさっさと止めて、
本当に必要な作業に集中すべきだ、と私は思います。
MC:あと、小出先生に質問が来ていまして、メールで頂いているのですが、
ラジオネーム(省略)という方なのですけれども、
「素人目に見ても、福島第一の原発事故は、
冷温停止に持っていけないように思えます。
かつて旧ソ連がやったように、原子炉の中に大量の鉛とコンクリートを流し込んで
石棺化する以外、放射性物質の大気拡散を止める手段はないかと思います」、
チェルノブイリと同じようにしたら、という提案なのですけれども、
これはいかがなのでしょうか。
出来るのでしょうか、福島第一の場合は。
小出氏:冷温停止という言葉が、私達の分野にはあるのですね。
それはどういう事かと言うと、原子炉圧力容器というものがまず健全であって、
その中に原子炉の炉心がちゃんと収まっている、と。
そして、冷却回路も、入口もあるし出口もあって、
少なくとも、きちっと循環出来るという、そういう状態で原子炉の炉心を冷やして、
100℃以下にするという、それが冷温停止という概念です。
しかしもう今回の場合には、炉心は溶けて落ちてしまっている訳ですし、
圧力容器の底には穴が開いてしまっている。
恐らくそれで、一部の核燃料は、圧力容器の底から流れ落ちて、
格納容器の底にまで落ちてしまっているという状態ですから、
冷温停止という概念は既に使えません。
私達人間が原子炉というのを使い初めて、既に60年以上経っていますけれども、
このような事態はかつて経験が無かった事で、
私達は未知の状態に陥ってしまっている訳です。
そして、どういう事が出来るのか、私にもよく解りませんが、
仮に原子炉の中に鉛を入れる、あるいは液体金属を入れたらどうか、
というような説を聞く事はありますけれども、
入れた所でたぶんもう燃料自身は格納容器の底に落ちてしまっていますので、
それ自体は、たぶんあまり効果がないだろう、と思います。
ただ、冷温停止も出来ないし、燃料そのものは格納容器の底に落ちてしまっている
という事を考えれば、格納容器、原子炉建屋そのもの全体を、
やはり石棺というようなもので覆うという以外に、
これからは出来る事がないのかもしれないと思うように私はなりました。
MC:やはり、そういう形で進めて行くしかない、という事なのですか。
小出氏:大分事態が手を付け難い状態に一歩一歩陥って来ていると思いますので、
従来の考え方を一度リセットして、この状態から何が出来るかを、
もう一度考えなおさなければいけない時点だろうと思います。
藤田氏:小出さん、この循環注水冷却ですか、
という事に漕ぎ着ける事が出来ずに現状のまま事態が悪化すれば、
今後どういう事が想定される訳なのでしょうか。
小出氏:まず炉心自身は、既に格納容器の底を、私は損傷していると思います。
何故かと言うと、原子炉建屋の地下に既に4000トンもの水が溜まっているという事で
それは格納容器の中に注入した、もともとは原子炉容器に注入し、
抜けている原子炉容器の底から落ちて格納容器に溜まった水が
更に原子炉建屋の地下に流れ落ちている訳ですから、
格納容器の底は既に損傷していると思います。
その損傷が、これからどんどん進んで行って、
溶けた炉心が地下に向かって落ちて行くという、そういう事態になると思います。
ですから、その汚染をどの段階でどこまで食い止められるかという事だと
思いますし、それを少しでも汚染を少なくするためには、
やはり外から水を今まで通り入れ続けて、
原子炉を冷やす作業は必要だと思います。
ただそれをやりますと、今までと同様に敷地の中に汚染水というものが
どんどん溢れてくるという事が避けられません。
そして一部はもう海へどんどんと流れて行っていると私は思いますけれども、
それを避けるためにも、汚染水の処理ですね、
それを何とか早く、今までみたいに物凄いゆっくりとしたスピードではなくて、
一刻も早く汚染水の除去というものをやらなければいけないと思います。
藤田氏:それで、この作業員なのですが、年間の許容量が
250mSvとされていますよね。
しかしながら、今回僅か10分間で160mSv、170mSvという事は、
作業員が十数分しか仕事を出来ないという事になりますか。
小出氏:160mSvから170mSvというのは、1時間当たりの現場の被曝量です。
でも1時間ちょっとしか、どっちにしてもいられませんね。
藤田氏:となると、何人作業員がいても、これはもう足りなくなって来る
という事態になりますかね。
小出氏:そうです。
大体現場で作業を求められる作業員というのは、
大変有能な、というか、特殊な知識を持った人でないと役に立ちませんので、
そういう人達を本当にこれから何カ月も、
あるいは私は年の単位だと思っているのですが、
きちっと揃える事が出来るだろうか、という点で不安を感じます。
MC:それからもうひとつ、お聞きしたい事があるのですけれども、
この事故の影響で放射性物質が付いた可能性のある瓦礫について、
こんなニュースが入っているのですが、
環境省が、瓦礫を集める事によって、放射線量が高くなった場所はない
と言ったという事で、瓦礫を集めて処理しても大丈夫と言っているのですが、
本当にそうなのでしょうか。
低量の放射線でも、沢山集まったら高くなるのではないかな、
と私達は考えてしまうのですけれども。
小出氏:原則としては、そうですね。
集めれば、その分だけ高くなるはずです。
どういう測定をしたのか、私には今は俄かには解りませんが、
基本的にはもう集めれば集めるだけ高くなると思って頂く以外にありません。
MC:あともうひとつ、環境省が、一定レベル以下の放射線量の瓦礫は
セシウムの放出を防ぐ専用の焼却施設で焼いて処理する、
と言っているそうなのですけれども、
煙などに放射性物質が入り込む可能性というのは考えられないのですか。
小出氏:もちろん、あります。
ですから、その焼却施設の排気、あるいは排煙設備は、
きちっと高性能のものを取り付けて、
放射性物質が気体として出ないようにしなければいけません。
でも、そんな焼却施設を作る事自身が時間が掛かってしまう事ですし、
今何よりも集中すべき事は、炉心の破壊をこれ以上進行させない事、
そして汚染水を外に漏らさないという事ですので、
そういう事こそ、まず力を注いで欲しいと思います。
MC:まず、そっちをやってからでないと、
とにかく今の問題の大本が収まらない訳ですから、
他の事という所を、完全に安全にしてしまうというのは
なかなか難しいという事ですね。
小出氏:そうです。
もう何でもかんでも出来るというのは、力は無いので、私達には。
どうしても必要な所に集中して、乗り越えるしかないと思います。
MC:はい、解りました。
小出さん、どうもありがとうございました。
藤田氏:ありがとうございました。
小出氏:ありがとうございました。
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