11月23日 「高コストの原発導入は、核兵器技術を獲得するため。原発再稼働は、実に愚かな選択」 小出 裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビュー 人民新聞オンライン

人民新聞オンライン

2014年11月23日付の人民新聞オンラインのWebサイトに小出 裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビュー記事が掲載されていましたので、情報として引用致します。引用元もご覧ください。

《引用元》
人民新聞オンライン


=====(引用ここから)=====

鹿児島県の伊藤知事が、川内原発再稼働に同意した。
福島原発事故に関して誰1人として刑事責任を問われることなく、政治責任も不問にされたため、「何が起きても自分が政治責任を問われることはない」と確信した上での政治決定だ。
これを指摘する内田樹氏は、「事態は『3・11』以前より悪くなってしまった」と嘆いている。

原発再稼働・事故原発の現状・IAEAの実体などについて、小出裕章さんに聞いた。
いつもの明快な解説とともに、原子力ムラへの深い怒りが表明された。

衆院が解散した。
半永久的な環境汚染や健康被害のリスクを受け入れてまで経済成長を追い求めるのか?
国土の一部を失ったことを忘れて、無人島の争奪に血道を上げるのか?
問われているのは、有権者の側だ。
(文責・編集部)

※ ※ ※

◆編集部
川内原発再稼動が焦点化しています。小出さんは11月に鹿児島に行かれたそうですが、講演内容を含めて、見解をお聞かせください。

◆小出
11月9日に、「日本平和学会」で、「原子力と核」というタイトルで「原子力は、実際には核兵器と同じものであり、平和と密接に関係しているんだ」という講演をしました。
8日は、市民グループの集会で川内原発の話をしました。

皆さんは十分ご承知だと思いますが、福島第一原発の事故が起きてしまっても、自民党政権は原子力発電をやり続けようとしています。
そのために安倍首相は、「安全性の確認された原発は動かす」と言っているわけですが、元来「安全性」なんて確認できる道理がないのです。

原子力規制委員会にしても、「安全基準」を作ったのではなく、「規制基準」というものを作ったのです。
言葉はとても大切なものですが、彼ら自身が「安全基準」とは言えず、わざわざ「規制基準」としたのです。

その上で規制基準に適合したと発表しましたが、「安全とは申し上げない」と、田中俊一委員長自身が言っているのです。

原子力発電所は機械ですから、その機械がもっている特性上、最悪の事故が起こりうる、と考えなければなりませんし、新しい規制基準も、最悪の事故を想定しているのです。
過酷事故を想定した上で、住民の避難計画が必要という立場に立っているわけですが、あろうことか、「避難計画」に関して「俺たちは知らない、各自治体で勝手にやれ」という、丸投げをしている訳です。
もう国家としての体裁をなしてないし、こんな状態で原発を再稼動させるのは、私はもちろん反対です。

◆編集部
前小渕経産大臣が「老朽原発の廃炉を検討すべきだ」と発言し、一定評価する人たちもいます。
再稼動との関連も含めてコメントをお願いします。

◆小出
私は政治が大嫌いですし、政治家の思惑がどこにあるのか?などわかりません。
でも、40年を超えた老朽原発は廃炉にした方が、電力会社にとっても得策だと思います。
なぜなら、再稼動のためには追加の安全工事等で金がかかりますし、金をかけても既に40年動かしているので、いずれにしてもある時期に廃炉の決断をしなければいけません。

その意味では、40年を経た老朽原発の廃炉は、経営サイドからみても合理的な判断だろう、と私は思います。

ですから小渕さんの発言は、そういう思惑を踏まえた発言かと思いました。
ただし小渕さんは辞任に追い込まれたので、ひょっとすると、そんなことを言う経産大臣は許さないという裏の思惑もあったのかもしれません。

ただ、老朽原発の廃炉方針は、同時に、「40年に達していない原発は再稼動すべき」というメッセージが強いと思いますし、それは実に愚かな選択だと思います。

汚染水流出で今後も海の汚染は続く

◆編集部
汚染水が漏れ続けて海が汚れていますが、汚染の度合いは、何がどこまで分かっているのでしょうか。

◆小出
ウランが燃えて核分裂生成物という放射性物質ができるのですが、単に核分裂生成物と言っても、およそ200種類もの放射性物質の集合体です。
それは、セシウム237、ストロンチウム90、ヨウ素131やゼノン133などですが、ほとんどの物質は短い寿命です。

事故から3年半経って、ほとんどは消えてなくなっています。
事故直後には、ゼノン133やヨウ素131といった、人間の健康に深刻な影響を与える放射性物質が大気中に噴出したのですが、それは今からでは取り返しのつかないことなので、今重要なのは、セシウム、ストロンチウム、トリチウムのほぼ三つ。
加えてプルトニウムくらいだと思います。

なかでも問題にすべきなのは、陸地の汚染ではセシウムだけです。
なぜならセシウムは揮発性で大気中に噴出し陸地を汚染したからです。

また、セシウムとストロンチウムは水溶性です。
福島第一原発では解けた炉心に向かって水をかけていますが、ほぼ同じ量のセシウムとストロンチウムが汚染水の中に溶けています。
この汚染水が原子炉建屋などに溜まっているのです。

東京電力は、汚染水を汲み上げてセシウムを捕捉する装置に送っています。
セシウムについてはかなり捕捉していると思いますが、セシウム以外の放射性物質は取れません。
このため東京電力は、ALPSという装置でストロンチウムを捕まえようとしましたが、ALPSがまともに動かず、汚染水が海に流れています。
海の汚染については、ストロンチウムが主な汚染源です。

ストロンチウムは、セシウムに比べて数倍危険ですが、ベータ線しか出さないために、測定が困難です。
このため海の汚染に関しては、データが無いのです。
これが一番の問題で、今後も海の汚染が続くでしょう。

ではどうすべきか?ですが、それは、セシウムによる海の汚染を調べることです。
それと同等、あるいは何倍のストロンチウムの汚染があると推測することで、当面は対処するしかないでしょう。

ただし、これまで人間が放射能で地球を汚染してきたことに関しては、様々な経験があります。
福島第一原子力発電所の前には、チェルノブイリ原発の事故が1986年にありました。
その前には1950~60年代にかけて、膨大な大気圏内核実験が行われています。
空中で核爆弾を爆発させて、放射性物質をばらまいた訳です。

福島原発事故でばらまかれたセシウム237は、日本政府の公式発表によると、広島原爆168発分だと言っています。
それだけでも大変な量ですが、大気圏内核実験はその60倍です。
それが太平洋・大西洋、大陸にも降り積もって、地球を汚染したのです。

ですから、福島事故で海へ流れ出ていっている放射性物質は、正確な評価ができないのですが、セシウムについては、大気中に放出したものと海に放出したものはほぼ同等程度だろう、と思っています。

そうすると、大気中に放出したセシウム237は、大気圏内核実験で既にその60倍をばらまいて地球上を汚していた訳ですから、全地球を平均的に汚染したとすれば、大気圏核実験のほうが多いのです。
太平洋は、これから福島から放出される放射性物質で汚れていきますが、これまでの汚染を超えることは、たぶんないと思います。

ただし、福島近海や阿武隈川河口は、放射性物質で濃密に汚れています。
そこの海産物は取らないというような注意をすれば、良いとは言いませんが、有効な手段の一つだろうと思います。

◆編集部
IAEA(国際原子力機関)は、福島で①放射線モニタリング、②除染、③福島県立医科大学と協同で健康管理に関する研究・事業を行うとしています。
実際には何をやっているのでしょう?

◆小出
何もやっていないでしょう。
実働部隊は、福島県や原子力開発機構などでしょうし、それらが収集したデータを眺めて、指示を出すことはあるかもしれません。

IAEAは、加盟各国の意を汲む研究者が集まっている国際組織ですが、そもそも「核爆弾開発」に起源をもつ組織です。
1945年 、アメリカ合衆国が広島、長崎で原子爆弾を爆発させ、人類は初めて核エネルギーに接することになりました。
米国が核爆弾を製造できたのは、第2次大戦で主戦場にならず、資源も豊かだったからです。

米国は、核兵器を当分は独占できるだろうと思っていたのですが、1949年8月には、早くもソ連が原爆製造に成功し、核の独占は崩れます。
そこで米大統領・アイゼンハワーは、核独占を維持しながら核技術開発を継続するために、「原子力の平和利用」を打ち出します。
核爆弾製造施設であるウラン濃縮工場や原子炉、再処理工場を、原子力発電施設として外国に売りつけ、金儲けをしながら技術開発を維持したいと考えたのです。

しかし、原子力発電は核技術そのものなので、原発輸出は核兵器拡散になります。
そこで 1957年、 米国は国際原子力機関を設立したのです。
このためIAEAは、2つの矛盾した役割を負わされることになりました。

それは、①「原子力の平和利用」を世界に広め、米国が原発ビジネスで金を儲けることを支えること、②他国に核兵器を作らせないための徹底した監視、です。
国連安全保障理事国は、核兵器を独占して世界を支配する国々ですから、IAEAを通じて核兵器の拡散を阻止しようとしてきたのです。

IAEAとは、そういう国際機関ですから、原理的に原発否定はあり得ません。
福島でやることははっきりしていて、「原発事故の影響は大したことはない」ことを教育・宣伝することです。

IAEAから派遣された「専門家」の仕事は、「福島で事故は起きましたが、健康被害は大してことはありません」と事故を過小評価するための作業なのです。

目先しか見ない人たち

◆編集部
再生可能エネルギー固定価格買取制度が、機能しなくなっていますが…

◆小出
目先のことしか見られない人たちだと思います。
説明します。
原子力発電は、燃料のウラン埋蔵量が石炭の数百分の1という少量ですから、早晩消えて無くなります。
石油・石炭などの化石燃料は、当分大丈夫ですが、100年の単位では枯渇するエネルギー源です。
そうなると、人類が頼るべき枯渇しないエネルギー源は、太陽しかないのです。
そのためには、長期の見通しを立てて、計画的にシフトしていくしかありません。

現状の再生可能エネルギー促進制度には数々の問題があると思いますが、いずれにせよ進まねばならない方向性なので、環境負荷を少なくしながら移行の方法を考えなければならないし、できるだけ早く実践に移す必要があります。

固定価格買取制度は必要な制度ですが、電力会社は原子力を少しでも延命して、自然エネルギーへのシフトを遅らせたいために、足掻いているのだと思います。本当に困った人たちです。

実験なしでも原爆製造は可能
発電コストの誤魔化しと核開発

◆編集部
原発は、原子爆弾製造技術そのものであり、日本政府・自民党の原発政策は、核兵器保有の潜在能力を保持することでした。
しかし、日本には核爆弾実験場はありません。
実験なしに核爆弾製造は可能ですか?

◆小出
世界初となった米国の原爆は、実験なしで爆発させています。
70年も前に、実験なしで製造し、爆発させてみたら、期待通りに爆発したのです。

科学技術が発達した現代においては、綿密に作り上げれば期待どおりに爆発することは、疑いようのないことです。

日本は、既にmade in Japan のプルトニウムを45㌧保有しています。
長崎原爆4000発分です。
ミサイルに転用できるロケット技術も、H2やイプシロンなどで着々と技術を蓄積しています。
科学技術庁は、原子力開発とロケット技術を所管する役所です。

核爆弾の原料と爆弾を打ち込む技術を、長期計画のもとで作り上げてきているのです。
自衛隊も、間違いなく関与しているはずです。

◆編集部
発展途上国にとって、原発は安いエネルギー源、しかも地球温暖化防止で規制がかかる化石燃料発電に比べて魅力的に映っています。

◆小出
日本が原発を導入した時も、「安くて永遠に尽きないエネルギー」と宣伝されました。
経済産業省も電力会社も「原発の発電コストは、水力・火力に比べて安い」との計算結果を発表し続け、ほとんどの日本人はそれを信じています。

しかしこれは、全くインチキです。
実際、電力会社の経営データである有価証券報告書に基づいて発電単価を計算すると、原発が一番高くなることは証明されています。
原発を進めれば進めるほど電気代は高くなるのです。
それでも再稼働を進めようとするのは、原発をやめてしまうと、「資産」である原発施設がすべて「不良債権」になってしまい、電力会社の経営破綻を免れないからです。

日本で原発新設はあり得ないのに外国に売りつけるのは、日本の原子力関連産業を維持し、金儲けをさせなければならないからです。
買う側の政府にしても、発電コストは高いにもかかわらず原発を買おうとするのは、核技術を手に入れるためです。

日本がそうであったように、原発導入は、核技術を獲得するため=核兵器を作る潜在能力を獲得したい、という国家意思の表れなのです。
導入の動機は、核兵器開発です。

◆編集部
3・11以降の世界を生きる人々が「国家に囚われない主体」となるには?

◆小出
現代資本主義社会は、競争をして自己の欲望を満たすことが最高の価値のように形成されてきました。

そうしたなかで、猛烈な差別が世界を覆っています。
これと真逆の方向を目指そうとするなら、人民の国境を越えた連帯だろうし、国内の様々な差別を克服する方向で運動すべきだと思います。
しかし、残念ながらそうならなかった。

「人民」が死語になってしまった日本で、国家に囚われない民衆がどのように生まれるのか?また、これからどうすべきか?は、私にもわかりません。

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