4月11日(月) 20ミリシーベルトの意味 小出裕章

2011年4月11日21時からMBSラジオ(毎日放送)のたね蒔きジャーナルに、小出裕章氏が出演されました。

福島第一原発、きょうは夕方に大きな余震が連発しました。影響で電源が50分止まりました。この原発問題については京都大学の小出先生に聞きます。

この放送は近畿地方の限られた府県でしか聴けませんが、録音したものを公開してくださっている方がいます。ありがとうございます。

まず、簡単な要約です。(下のほうに全体の書き起こしの転載があります)

・4日11日夕方に福島震源で震度6弱の地震があり50分ほど注水が中断したが、原子炉は常に冷却しないと溶けてしまう機械であり、中断のリスクはある。復旧したのは幸いだったが、作業員も被曝しているし、炉心の溶融もその間進んだ。

・原発周辺のモニタリングポストでは数値が上昇していないようだが、詳細は分からない。

・枝野官房長官は11日午前、「事態が悪化して大量の放射性物質が出るリスクは相当程度小さくなる」と言ったことについては、再臨界の可能性の話を別にすれば、核分裂生成物の発熱が時間とともに減少する(最初の1日で1/10になる)という性質を考えると、既に一ヶ月経っていて1/3くらいになっていて、その点では意味はわかる。ただ、一ヶ月経過して作業サイドが弱ってきているため、敵(放射能)が弱っていることだけではなく、双方を評価すべき。

・1号機のセンサーが100シーベルトを記録したのは、計りきれないほどレベルが高いか、あるいは東電が言うように測定器が壊れているかのどちらか。

・残留熱の除去復旧のために、新たな循環経路を構築するという提案をしたが、これは外から入れる水が汚染されて外に漏れるということがこれ以上続かないように、熱交換器を経由した循環のループを作る必要からの提案だ。

・このループを構築を全く新しく作るのは大変だが、既設の余熱除去系というものを活用することを提案したい。こうした提案のようなことは現場の方々は既に気がついているはずと思う。が、これを実現するためには被曝前提の現場作業が発生するため、とても気が重い。

・放射線の積算で20ミリシーベルトが避難の基準になったが、もともと1ミリシーベルトが基準だった。この変更は社会的な要請に基づくものであり、サイエンスから言えば危険は20倍に増える。こんなことをする政府が良い政府かどうかは一人ひとりが考えるべき。

・1年間で1ミリシーベルトを浴びると、年に1万人に1人がガンになると考え、それを我慢しなさいというのが1ミリシーベルトという基準。みなが100歳まで生きると簡単に仮定すると一生で100人に一人がガンになることになる。20ミリシーベルトならば、一生の間に5人に1人という数字。

また、こちらのブログではより詳しい内容紹介をされています。

Radio News「たねまきジャーナル」 4/11小出裕章先生に聞く

そして、ブログSleepingCatsでは、全体の書き起こしをされているので、転載させていただきます。

メインキャスター(以下「司会」):水野晶子
コメンテーター:平野幸夫・毎日新聞「ほっと兵庫」編集長

※毎度の言い訳、誤字脱字等ご了承下さい。

司会:ここで、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生に伺います。
  小出さん、こんばんは。

小出氏:こんばんは。

司会:今週もどうぞよろしくお願い致します。

小出氏:こちらこそ。

平野氏:よろしくお願いします。

司会:今日は、夕方5時過ぎに大きな地震がありました。
  福島県を震源とする震度6弱が観測された大きな地震で、
  福島第一原発の1号機から3号機まで、
  水を入れている作業が止まった。
  外部電源が落ちたと聞いていますが。
  50分間程注水作業が、止まりました。
  この事がどういうリスクがあるのか、あったのか、なかったのか、
  どうなんでしょう。

小出氏:もちろんリスクはありました。
  ずっと私はお伝えして来たと思いますが、
  原子炉というのは常に冷やしておかないと(燃料が)溶けてしまうという、
  そういう機械ですので、
  水をずっと入れ続けなければいけません。
  これまでもずっと苦労をして、3月11日地震と津波に襲われてから
  何とか水を入れようとしてきて、今日まで苦闘が続いてきた訳です。

  初めのうちは電源がなかったものですから、
  消防のポンプ車を連れて来て水を入れるという作業をしていた訳です。
  途中で電源が回復して、ようやくポンプ車ではなく、
  いわゆる電源を使ってポンプを回して、水を入れるという事をやってきた訳ですが、
  それが断たれてしまったという事で、
  たぶんまたポンプ車を使って暫く入れていたのではないかと思いますが、
  そんな事をやる間にも、また作業員の方々がたぶん被曝をしながら
  やっとのだと思います。

  50分という時間だけ済んだだけでも、幸いと言えば幸いでしたけれども、
  もちろん問題がなかった訳ではありません。

司会:つまりどういう問題が起こっていたであろうと思われるのですか。

小出氏:冷却ができない期間があった訳ですから、
  炉心の破壊という事がまた進行しただろうと思われます。

司会:50分という時間についてはいかがでしょう。

小出氏:50分で復旧して良かったと思います。
  これが1日とか2日とか電源が利用できないとなると、
  ますます困難な状況に陥った可能性があったと思います。

司会:ただこれで、水位がどう変化した、あるいは燃料棒がどのように損傷した、
  あるいは放射性物質がどのように出たというようなデータは、
  私はまだ見つけていないのですが、
  小出先生はそういったものを見つけていますか。

小出氏:見つけていないです。
  まだ周辺のモリタリングポストに異常が出なかったという事は、
  先ほど千葉さんもおっしゃっていたと思いますけれども(ニュースコーナー)、
  あまり破壊が進まなかったのであれば、良かったと思いますけれども、
  まだ詳細は、私は承知しておりません。

司会:そうですか。
  枝野官房長官が、これは地震の前、午前の会見ですけれども、
  こういう事をおっしゃいました。
  「事態が悪化して大量の放射性物質が出るリスクは相当程度小さくなる」と。
  この根拠までは、枝野さん、おっしゃらなかったのですけれども、
  どうしてこういうふうに枝野さんはおっしゃったのだと、
  小出さんは思われますか。

小出氏:これも一番初めから私は申し上げたと思うのだけれども、
  原子炉の核分裂反応は、基本的には停止したはずだと、
  私は思っていたのですね。
  先週の末に再臨界という事が起きているかもしれないという事は
  申し上げたと・・・

司会:懸念としておっしゃいました。

小出氏:今でもその可能性があると思っていますが、
  その再臨界の話を別にすれば、
  私達が戦っている相手は、原子炉の炉心に蓄積してしまっている
  核分裂生成物という放射能そのものなのです。
  それが発熱をするという性質を持っている訳ですが、
  発熱というものの、核分裂生成物の寿命に従ってどんどん減って来てくれるという
  そういう性質を持っているのです。

  原子炉が止まった時には、まだ猛烈な発熱をしているのですが、
  寿命の短い放射能がどんどん無くなってくれるので、
  1日持ちこたえる事ができるならば、10分の1位に減ってくれる。

司会:放射性物質が。

小出氏:(放射性物質)の、発熱が。

司会:発熱が、10分の1に、1日で、持ちこたえたら減っていく。

小出氏:そうなのです。
  それからまた、1週間位の間には、半分とは言わないけれども、
  1日後のまた半分位まで減ってくれるのですね、
  1週間位のうちに。

  ですからは、私は、1日あるいは1週間という、
  かなり猛烈な発熱をしている間に勝負は決まると思っていたのです。
  放射能の方が強くてこちら側が負けてしまうか、
  あるいは何とかそれを持ちこたえて冷やす事が出来るようになるか、
  という事で、勝負は1週間だと思っていたのですが、
  私の予想を全く裏切って、勝負はもう既に一月経っても続いている訳です。
  その間に、敵である放射能もどんどん力が弱って来ているのです。

  事故が始まって1日目後に、私は10分の1位まで向こうが弱くなると
  言った訳ですけれども、
  それからまた一月後で考えると、更にまた3分の1位に減っていると思います。
  ですから、向こうも随分弱って来ているという事があるのです。
  ここまで持ちこたえたのだから、何とか持ちこたえて欲しいと私も願う訳ですし、
  持ちこたえられるという可能性は、それなりにはある訳です。

  ただし、敵が弱って来ていると同時に、
  たぶん福島の人達も相当疲れてきているだろうと思います。
  本当に専門的な能力を持って敵と戦っている人達が、
  次々と被曝の限度という所に達して行っていますので、
  こちら側が本当に持ちこたえられるのかな、どうなのかな、
  というのが今の私の不安です。

  ですから、枝野さんは簡単に、もういいというふうにおっしゃったのかもしれませんが、
  敵が弱って来ているという事は本当ですけれども、
  こちら側も弱って来ている事を、同時に評価しなければいけないと思います。

司会:それだけ本当に作業にあたっている方々が持ちこたえさせているから、
  こうやって放射能の量も発熱も落ちてくる、と。
  そういうメカニズムだったのですね。

小出氏:そうです。

司会:そうした中で、ひとつの懸念材料、先ほど千葉さんが紹介してくれた話で、
  1号機は格納容器の水素爆発を避けるために窒素を投入している、と。
  普通だったら圧力が上がるはずなのに上がらない。
  これについては・・・

小出氏:漏れているからです。

司会:やはり漏れていると見られますか。

小出氏:はい。
  もともとから漏れているのが解っている訳ですから、
  当然そうだと思います。

司会:リスナーの方でですね、こういう情報を下さった方がいます。
  「1号炉の格納容器の中のセンサーが、
  おそらく測定できる限界を記録しているのではないかと思われます。
  1時間当たり100Svというのは限界なのか、
  今朝の発表でこの値が撤回されていないように思うのです。
  小出先生に伺えたら」というふうにおっしゃっているのですが。

小出氏:東電の言い分だと、センサーが破損しているというのが当然の言い分だ
  と、私は聞きました。

司会:格納容器の中の放射性物質の量が、計りきれないという事ですね。

小出氏:そうですね。
  計りきれない程高いのか、あるいはもう測定機自身が壊れているのか、
  どちらかと思います。

司会:どちらかという事は今の所解らない、と。

小出氏:はい。
  東電の方は壊れていると言っているのだと聞きました。

司会:なるほど。

平野氏:小出先生、毎日新聞の昨日の朝刊で、先生がうちの取材で、
  今圧力容器の損傷で冷却水が漏れて、それを復旧するためには、
  残留熱の除去復旧をするために、全体にもう1回循環して、
  中にある水を循環して冷やしていかなければならないのだ、と。
  要するに新たな経路を構築する必要があるのだと、おっしゃっているのですけれども、
  これは実現性としてはどうなのでしょうか。

小出氏:もともとは原子炉圧力容器という鋼鉄の容器は、
  絶対に壊れないというふうに想定されてきたのです。
  ですから、1次系と言っている(冷却系)ループがある訳ですけれども、
  それは原子炉圧力容器も健全であり、
  それに入って行く配管も出て行く配管も全部が健全で、
  ポンプでぐるぐる水を回すという、そういう設計なのです。
  でも、既に圧力容器に穴が開いてしまっている事が確実ですので、
  そのループはもう出来ないのです。

平野氏:でも、出来ないのですけれども、今やっているのですね。

小出氏:今はそれが出来ないために、外からとにかく水を入れている訳です。
  水を入れればジャジャ漏れになって来て、格納容器の中に漏れている訳で、
  それが、格納容器が損傷しているために、外に溢れて来ていて、
  タービン建屋にどんどん水が溜まってくる、
  そしてトレンチの方に溢れて行っているという事が続いている訳です。
  外から水を入れれば、それが溢れてまた外に溢れて行くという事は
  当たり前なのであって、それをいつまでも続けて行くという事は出来ないと思います。

  ですから、外から水を入れるのではなく、
  何か別の回路でぐるぐる回るというループを作らなければいけない、
  と私は思いまして、そのループの作り方の提案をひとつした訳です。

平野氏:原子力安全委員会は、
  何か外付けの循環経路を作るという先生の話を聞き取って
  言っている人もいるようなのですけれども、
  外付けという事も今は現実的に出来るのですかね。

小出氏:外付けというのは、もちろん外付けなのですね。
  格納容器の中に人間が入る事なんて到底できませんし、
  何の工事も出来ないので、
  ですから原子炉容器の中に水を入れるために、
  どういうループを作るかという事を、今考えなければいけないのです。

  私自身は、もう原子炉圧力容器が壊れているので、
  原子炉圧力容器と、それを包んでいる格納容器と、
  とにかくひとつの容器として考えればいい、というのが私の提案なのです。

  原子炉圧力容器の中に水を入れますと、
  それは必ず格納容器に漏れて来ますので、
  格納容器からポンプで水を吸い出して、
  それをまた圧力容器の中に戻すような、そういうループを作ると。
  その途中に熱交換器というのを働かせられるようにして、
  熱だけは(熱交換器で海水に移し)海に捨てるというような事をすれば、
  外から水を入れてジャジャ漏れにするというのではなくて、
  水が回せるはずだというのが、私の提案なのです。

司会:この外付けの循環のシステムを作れるようになるには、
  どういう状況が必要ですか。

小出氏:そういうループですね、
  ぐるぐるとポンプを使って、熱交換器を通して、
  1次系という圧力容器の中を冷やせるようなループを作らなければいけないのです。
  全く新しく作ろうと思うと、とてつもなく大変です、これは。

  原子力発電所の中に余熱除去系というループがあって、
  かなりフレキシブルにいろいろ形で使えるという、
  そういうループがあるはずなので、それを基本的に使って、
  どうしても足りない部分を何か工夫をして、新しい配管を付けるとか、
  何かでできないかな、というふうに、今、私は思っています。

  私は外から見ている訳ですが、
  福島の発電所の人というのはもう自分達の機械を知り尽くしているはずですから、
  何かアイデアを出して考えてくれているだろう、と期待をしています。

司会:これは、作業員の方の被曝・・・

小出氏:必ずするだろうと思います。
  こんな提案をしながらも、私は大変気が重いです。

司会:そうですか。
  そこを何とか安全に出来る方法が、本当は欲しい訳ですね。

小出氏:そうです。
  少しでも被曝をしないで、そういうループを作ってもらう、
  そして、今みたいに外から入れて外に漏らすというふうな事を、
  なるべく早めにお終いにする、という作業をやらなければいけないと思います。

司会:小出さんのこうした具体的なアイデアというのは、
  東電なり政府なりに伝わるのですか。

小出氏:今日、これを聞いて下さっている皆さんが、
  またこれを伝えて下さるという事が、ひとつの力になると思いますし、
  今私は申し上げました通り、私が言うよりも前に福島の現地にいる専門家達は、
  きっと気が付いているはずだと、私は思います。
  
司会:もうひとつ、伺いたいのは、飯館村に避難指示が出るなど、
  これまでの同心円的対応ではなくす、というふうに政府が変化しましたね。

小出氏:そうですね。

司会:小出先生が当初からおっしゃっていた事がやっと一ヵ月経って
  追いついてきた部分かと思うのですが、
  その時に基準となるのは、放射線の積算で、
  積った量が年間20mSv以上の地域となっています。
  この20mSvというのは妥当な数字なのですか。

小出氏:危険があるかないかという意味で言えば、必ず危険はある訳ですね。
  危険があるので、普通の日本人というのは
  1年間に1mSvしか浴びてはいけないと言って、
  日本の法律は決めたのですね。

司会:1mSvなのですね。

小出氏:はい。
  危険がある事を認めた上でそう決めた訳です。
  その20倍までは、今この非常事態では我慢させるしかない、
  と言っている訳です。
  それがいいかどうかというのは、極めて社会的判断なのであって、
  いわゆるサイエンスの判断とは違います。
  危険が20倍増えるというのが、サイエンスの判断です。

司会:政治的判断というふうに、私達は受け取るしかないのですね。
  この数字については。

小出氏:そうです。
  そんな事を言う政府が、本当に良い政府なのかどうなのかという事を
  ひとりひとりが考えなければいけません。

司会:なるほど。
  これは、緊急時だという事ではありますけれども、
  20mSvと聞いても、それが何を意味するのか、
  素人なら解らない訳ですよね。

小出氏:そうですね。

司会:どういう風に考えていいのですか。

小出氏:簡単にちょっとひとつ説明しますが、
  1mSvという、いわゆる日本の国の基準ですけれども、
  それを1年間浴びると、1万人に一人の人がガンで死ぬという、
  その程度のリスクです。
  1万人に一人位ならいいだろうという事になるかもしれませんが。

司会:まあ、そう思うかどうかは別として。

小出氏:人間が100歳まで生きる事はないでしょうけれども、
  大雑把に言って100歳まで生きるとすると、
  毎年毎年それが積もって行く訳ですから、
  100人に一人がガンで死ぬという位のリスクは我慢しなさい、
  というのが日本の法律なのです。

司会:そうですか。
  そう聞くと、高い数字に思えますね。

小出氏:はい。
  それが20mSvというと、その20倍になる訳ですから、
  100人に一人ではなくて、5人に一人で死ぬ事は諦めなさい、
  と、そういう基準になる訳です。

司会:例えば、100歳まで皆が生きるとしたらという前提ではありますが、
  科学的に計算すると、そういう数字なのですか。

小出氏:サイエンスの領域で言えば、そういう事を意味している数字なのです。

司会:なるほど。
  今日は、小出先生からの具体的な今やるべき方策というのを伺いましたし、
  これが、またいろいろな知恵と合わさる形で前進するようにというふうに
  思っております。
  (退避指示に関し)同心円的な考えから脱したという事では、
  本当に小出先生がおっしゃり続けた事が一歩進んだのかな、
  という事を今日は感じております。

司会・平野氏:どうもありがとうございました。

小出氏:どうもありがとうございました。

司会:京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生に伺いました。

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