2月13日 「生き方そのものが問われている 代替エネルギーをどうするか?経済をどう成長させるか?というレベルの話ではない。」 小出さんインタビュー/人民新聞オンライン

人民新聞オンライン

2013年2月13日、人民新聞オンラインページに、小出裕章さんのインタビュー記事が掲載されていましたので、その記事を転載致します。

▼人民新聞オンライン
生き方そのものが問われている。代替エネルギーをどうするか?経済をどう成長させるか?というレベルの話ではない。

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「生き方そのものが問われている:
代替エネルギーをどうするか? 経済をどう成長させるか?というレベルの話ではない。」

小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビュー

①事故原発の現状、②関電の電気料金値上げ、③震災ガレキの広域処理、④原子力規制委員会による「新規制基準」(骨子)について、小出裕章さんにインタビューした。
小出さんには、事故以前から研究室にお邪魔して何度も話を聞かせてもらったが、人への接し方・話し方は、事故前と全く変わることがない。
事故直後は、寝る時間がなくて2週間で5㎏痩せたが、今は、1カ月に2日は休むようにしているそうだ。
超多忙な研究生活ながら、誰からのどんな電話にも丁寧に答える姿に、誠実な人柄が垣間見える。(編集部・山田)

溶けた炉心の在処、未だに不明/格納容器もあちこちに穴

◆編集部
まず、事故原発の現状について、教えて下さい。

◆小出
福島第1原発では4つの原子炉が壊れたのですが、1~3号機は、運転中、4号機は、定期検査のために停止中で、燃料棒も装着されていませんでした。
1~3号機は、炉心を冷やすことができず、メルトダウンして大量の放射能を放出してしまいました。
圧力容器の底に熔け落ちた核燃料は、厚い鋼鉄の底を溶かして、放射能を閉じこめる最後の防壁である「格納容器の床に落ちた」と、東京電力は言っています。
私もそう思いますが、その後、熔けた核燃料がどうなっているのか?実は誰にもわからないのです。

理由は、猛烈な放射能汚染のために建屋に人が入ることができないので、目で確認できないからです。
ロボットを入れて写真撮影させていますが、戻って来られずに討ち死にするロボットが、後を絶ちません。
猛烈な放射線環境で電子機器が故障するのと、散乱しているがれきが行く手や岐路を阻んでいます。
東電は、残っている計測器で核燃料の在処を判断しようとしていますが、そもそも過酷事故を予想していなかったので、計測器が配置されていません。
通常運転に必要な各種計測器はありますが、放射線と水蒸気のために次々と壊れていって、センサーによる情報も失われつつあるのが現状です。

格納容器の底はコンクリートで、1㍍の厚みがあるのですが、「熔けた燃料は70㌢のところで止まっており、核燃料は格納容器の中に閉じこめている」というのが東電の公式発表です。
ただし、「閉じこめている」はずの格納容器は、あちこちに穴があるのは確実です。
格納容器に注入する水が、中で全く溜まらず、漏れ続けているからです。
最後の防壁である格納容器が破られて、現在も放射能が漏れ続けているのが現状です。

私は、熔けた燃料が格納容器を突き破り、地下水を汚染しているかもわからないと思っています。
もし、燃料が格納容器の底も突き破って地面に達していれば、地下水を汚染し、いずれ海に出て行きます。
汚染の拡大をくい止める手段がなくなります。

私は、一昨年5月から、「炉心が地面に熔け落ちる前に、原子炉建家周辺に、鉄板などで地下バリアを張り巡らすべきだ」と提言してきましたが、今も手つかずです。
一方、地上部分では、毎時1000万Bqの放射能が漏れ続けている、と東電は発表しています。
この数値は、事故直後2週間あまりに放出された放射能量に比べると、劇的に減少しています。

危機的状況続く4号炉/使用済み燃料の取り出し至難の業

◆小出
4号機は、メルトダウンはまぬがれたのですが、ここには大量の使用済み燃料がプールに沈められています。
その放射能総量は、控えめに計算しても広島原爆1万発分です。
事故直後、消防庁や自衛隊が大量の水をかけている映像が流れましたが、これは、使用済み燃料プールへの対応でした。
プール自体は、たぶん大きくは壊れていませんが、危機的状況にあります。
原子炉建屋が爆発で激しく破壊され、プールが埋め込まれている階の壁がほとんどないために、プールは、いわば宙づり状態です

東電も危機感を持ち、事故直後に応急耐震補強工事をやりましたが、被曝環境での突貫工事だったために、今もプールの半分が宙づりのままです。
余震でプールが破壊されるようなことになると、これまでの放出量とは桁違いの放射能が出てくる危険が存在しています。

この使用済み核燃料を取り出すために東電は、今年末をめどに、クレーン用の大規模な構造物を作ろうとしています。
現在は、プールの上部にある最上階の柱や壁をすべて撤去した段階です。この建設作業も、建屋に入れない1~3号機に比べればマシですが、過酷な被曝労働です。

プールの中には、1535体の燃料棒が入っており、そのうち1331体が使用済み、204体が未使用です。
未使用の燃料棒は、人の手で触っても大丈夫くらいの放射能レベルですので、昨年7月、東電は、試験的に未使用燃料棒の取り出し作業を行いました。
燃料の状態を知るためですが、これも未使用燃料棒だからできた作業です。
使用済み燃料となると、プールから引き出した瞬間に、周囲の人間がばたばたと死ぬほどの危険物です。

そのため、使用済み燃料については、100㌧もある「キャスク」という容器をプールに沈め、水の中で燃料棒を入れ、蓋をしてキャスクごと水面から出す、という作業となります。
ただし、プールの中には、大量のがれきが散乱しているので、まず水中のがれきを撤去しなければならないし、燃料棒がゆがんでいれば、吊り出すのは困難です。
もし、燃料を落として破損するようなことになれば、大量の放射能が放出されます。
1331体の使用済み燃料を完璧に安全に吊り出す作業となるので、どれほどの被曝労働と時間がかかるか、私には想像もできません。

電気料金値上げは、経営幹部の責任追究が大前提

◆編集部
関西電力が料金値上げを申請していますが…。

◆小出
全くふざけた申請です。
そもそも原子力発電が、他の発電方法に比べて最も高くつく方法であることは、有価証券報告書を見ればわかってしまっている事実です。
「経営難」というなら、この高い発電方法を選んできたという経営上の責任が、関電首脳陣にはあるはずです。

挙げ句の果てに、安全であったはずの原発が事故を起こし、原発を動かすことが不可能になるかもしれない事態になっています。
そうなると資産であった原発は不良債権化し、関電は、簡単に倒産します。この責任は、いうまでもなく、原発を選択した経営陣にあります。
経営陣は、この間違いを謝罪し、全員辞任して初めて、今後のことを議論するスタートに立てます。

原発を推進してきたことに何の反省も謝罪もないばかりか、「原発を動かさなければ電気代を上げるぞ」と、脅しまでかけています。
呆れた人たちです。
経営だ、経済だというなら、値上げ申請の前に、金勘定ができなかった経営者としての責任をまず明らかにすべきです。

震災がれき広域処理するなら2つの条件満たせ

◆編集部
震災がれきの広域処理が大阪でも始まりました。

◆小出
放射能ゴミの処理原則は、①発生したところで、②可能な限りコンパクトにして、③他の物と混ぜずに閉じこめる、のが大原則です。
不幸にして広範な地域が放射能に汚染されてしまったのですが、これを他の地域に持ち出すのは、原則に反しているので、やってはいけません。これが私の基本的態度です。

その上で、私の望みは、子どもたちの被曝をできる限り減らすことです。
日本政府は、がれきも放射能汚染も放置して、子どもたちをそこに住まわせる、という政策をとっています。
私の原則からいえば、現地に専用の処理施設を建てて放射能を閉じこめることですが、政府は何もやらないので、汚染地の子どもたちが被曝し続けています。
これを避けるために、全国でがれきを引き受けるという選択肢はあり得ると思っています。

ただし、条件が2つあります。
①焼却施設から放射性物質が飛び散らないようするためのしっかりした補足装置(フィルター)を装備すること、
②灰はそれぞれの自治体が処分することになっていますが、大阪なら大阪湾に埋め立てるようなことはせず、全国の焼却灰を1カ所に集めて、元々の所有者である東電に返すこと、です。

返す場所は、本来なら発生源である福島第1発電所ですが、そこは現在、過酷な被曝環境の中で多くの労働者が働いているので、そこに返すことはできません。
もし私にやらせてもらえるなら、東電本社の会長室から始まって社長室・重役室を汚染灰で埋めていきますが、できないなら、福島第2原発の敷地を核のゴミ捨て場にすればいいと思います。

ここには広大な敷地があり、東電は再稼働を計画しています。
10万を超える住民の故郷を奪い、苦難のどん底に突き落としながら、自分だけは生き残って再稼働を計画するなど、到底容認できません。
福島第2原発を核のゴミ捨て場にすることは、東電に責任をとらす一つの方法です。
この2つの条件を満たすなら、がれきを受け入れてもいいと考えています。

事故原因もわからないのに「新基準」作って再稼働に進む原子力ムラ

◆編集部
原子力規制委が発表した「新基準」の骨子案への評価をお願いします。

◆小出
新基準が作られた原因は、いうまでもなく福島原発事故ですが、事故原因すらまだわかっていません。
建屋に人間が入ることができず、どこがどう壊れているのか、熔けた炉心がどこにあるのか、もわからない。
原子炉が壊れたのは、地震が原因なのか? 津波が原因なのか? また別の要因なのか? もわかっていないのに、どうやって新しい基準が作れるのでしょうか?

検証作業は10年以上かかるでしょうが、その間、新しい基準は作れないし、原発を動かすこともできません。
新しい基準ができれば、あたかも安全な原発ができるかのような期待があるようですが、事故原因がわかっていないのですから、対策は打ちようがありません。
おまけに、基準を作り、運用している人たちは、まるまる原子力ムラの住民なのです。
安倍政権は、もっとゴリゴリの人を委員にするかもしれませんが、現職委員も、初めからムラ人です。

先日も、原子力規制委員会の事務局メンバーが、こっそりと日本原電に資料を渡していたことが明るみに出ました。
当然なのです。これまでと同じことをやっただけのことです。何にも変わっていないのです。

原発は大きな機械ですから、壊れる要因は山ほどあります。
人類は、これまでメルトダウンを4回経験しています。
①英国・ウィンズケルにあるプルトニウム生産炉(1957年)、②米国・スリーマイル発電所(1979年)、③ソ連・チェルノブイリ発電所(1986年)、④福島原発(2011年)です。

福島原発は、地震と津波が原因でしたが、他の3つの事故は、地震も津波も全く関係がありません。
しかも、どれも予測を超えた事故が起こっています。
5番目が起こるとすれば、それは別の要因でしょう。
機械とは、そういうものなのです。
津波の想定を最大値にしたからといって、「安全が確保された」なんていうのは、バカげています。
新基準は、原発再稼働のための手続きに過ぎません。

どんな社会作るのか? 今こそ「暗闇の思想」を

◆編集部
最新刊で「暗闇の思想」を提唱されていますが…。

◆小出
東洋の端にある小さな日本は、欧米を見習う近代化によって、エネルギーを大量に使えるようになり、人殺し兵器も劇的に発展させてきました。
西洋型の科学技術にすがって、大国を目指したのですが、それ自体が間違いだったのだと思います。

工業化のために農業を潰し、海を汚染し、沿岸漁業を壊滅させましたが、その当時に松下竜一さんは、声を上げました。
海の埋め立てに反対し、発電所建設にも反対しました。
それを彼は死ぬまで貫き、晩年は、さらに関心を広げていきました。
工業にどっぷりと依存し、自然を壊しながら「カネ」を追い求めてきた日本の社会の作り方を見直す、という意味で、松下さんは先験的な仕事をなさった素敵な人でした。

「どういう社会を作るべきなのか?」が最も重要なテーマです。
原発事故は、代替エネルギーをどうするか?  経済をどう成長させるか? というようなレベルの話ではありません。
私たちの生き方そのものが問われていることに気づいてほしいと思います。

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